中学校の理科の教科書がすごすぎる件。
新課程用の高校物理の教科書はまだ手に取って見ていないのでどうなのか知らないが,少なくとも,中学の理科はすごいことになっている。
といっても,この間までの旧課程の理科の教科書を見たわけではないので,それほど変わっていないのかもしれない。また,僕が中学校の時に使っていた教科書がどんなだったかさっぱり思い出せないので,その頃からもあまり変化がなかったりするのかもしれない。
けれども,とにかく,大日本図書の『理科の世界』2年と3年の教科書を見て,そりゃーおったまげたさ。という驚きについて語りたい。
中学までの理科は,物理,化学,生物,地学の四分野をすべて学ぶ。僕の「マイブーム」は電気分野なので,それだけに限定した話になるが,とにかくおでれーたでかんわ。
まず,僕が手に取った教科書は,サイズが B5 版と,デカい。そして重い。すべてのページがカラーで,しかも300ページもあるからである。
図と写真が実に豊富である。教科書それ自体が図表の役割も果たしている。
2年の教科書には Ohm の法則,電磁誘導,交流,クルックス管などを扱う電気分野が載っているが,写真や図で解説されている実験は実に楽しげで,ぜひとも自分の手で確かめたいと思わせるような面白いものばかりである。もっとも,そのあたりの話題は昔からの定番である手作りモーターなどが中心なので,そういった内容は僕が使っていた教科書にもきっと載っていたであろう。ただ,スピーカーを作ろうというコラムまであったかどうかはわからないが。ちょうどスピーカーを作ってみようかと思っていたところだったので,その記事も参考にしつつ,実際に実験してみた。
そいった昔ながらの話だけでなく,最新の話題も取り入れている。それは,いまや誰もが知っている LED をふんだんに使っていることからわかる。これはさすがに僕の時代にはなかった。当時は豆電球の独壇場だったのである。
順方向に電圧をかけたときのみ電流が流れて光るという LED の性質を使うと,交流の特性を目で確かめられる印象深い実験が可能になる。それと同じ発想に立った実験は圧電サウンダを用いても行うことができる。(3年の教科書 291 ページに,バイモルフと呼ばれる圧電素子を用いた材料を使った類似の実験が紹介されている。)
この他,巻末にはシャープペンシルの芯を用いて電球を作ろうとか,アルミ箔で箔検電器を自作しようという,昔ながらの実験だけにとどまらず,IH ヒーターからコイルで誘導電流を取り出してみよう modern な話題もある。物を加熱するためだけの器具だと思っていたのに,それから電気を取り出すことができるなんて!と,巻末まで目を通した理科好きの中学生は驚くに違いない。あと数年も経てば,電磁誘導を利用した非接触型の充電器の話題も教科書で取り上げられることだろう。
さて,新年度になったことだし,3年の教科書はどうかと思ってパラパラめくっていると,とんでもない記事に出くわした。
中学3年理科の物理分野はエネルギーを一つの大きな柱としている。そこではさまざまな形態のエネルギーの相互転換が取り上げられている。
すでに2年で習ったことだが,電気でモーターを回すことができるし,逆にモーターを回せば電気が生じる。
その他には,電気を使って電球や LED を光らせることができた。また,電熱線は電気を熱に変える。
3年の教科書は,ではその逆はどうだろうかと問いかけてくる。もちろん,これらに対する答えはよく知られている。光を電気に変換するデバイスとしての太陽電池は今ではすっかりお馴染みだし,火力や原子力を用いた発電所は熱エネルギーを力学的エネルギーに転換し,最終的に電気エネルギーに変えているわけだから,熱エネルギーを電気エネルギーに転換し得るということは周知であろう。
しかし,『理科の世界』3年ではそういったありきたりの話を紹介するだけでは済まさない。
LED に光を当てたら電気ができるだろうか。
ペルチェ素子を冷やしたら電気ができるだろうか。
そんな実験を 61 ページで紹介しているのである!
奇しくも,僕はちょうどそのページを目にする数時間前に,さすがに LED に光を当てても電気が発生するなんてことはないだろう,だってそんな話聞いたこともないもん、と考えていた。
ところが,そんなバカげた考えを中学の教科書で大真面目に取り上げている。
試しもせず,「聞いたこともないから」などというくだらない理由でせっかくのアイデアを自ら捨ててしまうとは。
つくづく,自分に科学者の素質がないことを思い知った。
つまらない常識にとらわれて,はなから実験を試みないようでは,新しい発見などできるはずもない。科学者ならば,盲点など作ってはならない。
中学の教科書にも載っているようなことであるとはいえ,自分で思いついた予想を自分の手で確かめるという絶好の機会を逃したのは悔しいことこの上ない。
ちなみに,少し前に借りてきたものの全然目を通さないままでいる,長谷川竜生,釜野勝,上原信知著『よくわかる最新 LED の基本と仕組み』(秀和システム)にはこんなマニアックな話,書いてあるのかしらんと思って見てみると,3-9 節で LED の受光特性をバッチリ取り上げていた。もっとも,「あまり知られていないですが」という文言があるので,やはりメジャーな知識ではないようだ。この本は 2012年8月に出版されたとのことであるが,それより一年半前に検定が完了し,半年前に発行されていたらしい中学用の教科書に載っていたのである。大多数の中学教員も知らなかったと思うのだが,どうだろう。
それに,ペルチェ素子まで登場するとは,恐れ入ったという他ない。僕が最近取り組み始めたことはすでに中学理科の教科書に盛り込まれ済みだったわけである。
ただ,今回調べてみて分かったのだが,接触させた異なる金属に電流を流すと熱勾配が生じるというゼーベック効果と,その逆である,電流によって熱勾配が生じるというペルチェ(ペルティエ)効果自体は,200年近く前に発見されていたそうなので,ペルチェ素子の実験の元ネタはずっと昔からよく知られていた現象だったようだ。これらの現象を結ぶキーワードである「熱電効果」というのは,学生時代に習ったような気がする。そのことに思いが及ばなかったのは恥ずかしいことこの上ない。
最新の中学理科の教科書は,眺めているだけでも楽しい紙面であるのに,とっくの昔に義務教育を終えたいい大人の自分がふと我に返ると,己のふがいなさを痛感してしまって純粋に楽しめなくなる,というなんとも複雑な気持ちにさせる書物である。
けれども,たまたま開いた索引から iPS 細胞という今を時めく医療科学の最先端のキーワードが目に飛び込んできたし,「持続可能な社会」とか,身の回りの身近なことから新聞やニュースで取り上げられている最先端の話題までがてんこ盛りなので,科学・技術全般にわたって勉強し直したいという大人には,中学理科の教科書を一読することを強くお勧めする。
といっても,この間までの旧課程の理科の教科書を見たわけではないので,それほど変わっていないのかもしれない。また,僕が中学校の時に使っていた教科書がどんなだったかさっぱり思い出せないので,その頃からもあまり変化がなかったりするのかもしれない。
けれども,とにかく,大日本図書の『理科の世界』2年と3年の教科書を見て,そりゃーおったまげたさ。という驚きについて語りたい。
中学までの理科は,物理,化学,生物,地学の四分野をすべて学ぶ。僕の「マイブーム」は電気分野なので,それだけに限定した話になるが,とにかくおでれーたでかんわ。
まず,僕が手に取った教科書は,サイズが B5 版と,デカい。そして重い。すべてのページがカラーで,しかも300ページもあるからである。
図と写真が実に豊富である。教科書それ自体が図表の役割も果たしている。
2年の教科書には Ohm の法則,電磁誘導,交流,クルックス管などを扱う電気分野が載っているが,写真や図で解説されている実験は実に楽しげで,ぜひとも自分の手で確かめたいと思わせるような面白いものばかりである。もっとも,そのあたりの話題は昔からの定番である手作りモーターなどが中心なので,そういった内容は僕が使っていた教科書にもきっと載っていたであろう。ただ,スピーカーを作ろうというコラムまであったかどうかはわからないが。ちょうどスピーカーを作ってみようかと思っていたところだったので,その記事も参考にしつつ,実際に実験してみた。
そいった昔ながらの話だけでなく,最新の話題も取り入れている。それは,いまや誰もが知っている LED をふんだんに使っていることからわかる。これはさすがに僕の時代にはなかった。当時は豆電球の独壇場だったのである。
順方向に電圧をかけたときのみ電流が流れて光るという LED の性質を使うと,交流の特性を目で確かめられる印象深い実験が可能になる。それと同じ発想に立った実験は圧電サウンダを用いても行うことができる。(3年の教科書 291 ページに,バイモルフと呼ばれる圧電素子を用いた材料を使った類似の実験が紹介されている。)
この他,巻末にはシャープペンシルの芯を用いて電球を作ろうとか,アルミ箔で箔検電器を自作しようという,昔ながらの実験だけにとどまらず,IH ヒーターからコイルで誘導電流を取り出してみよう modern な話題もある。物を加熱するためだけの器具だと思っていたのに,それから電気を取り出すことができるなんて!と,巻末まで目を通した理科好きの中学生は驚くに違いない。あと数年も経てば,電磁誘導を利用した非接触型の充電器の話題も教科書で取り上げられることだろう。
さて,新年度になったことだし,3年の教科書はどうかと思ってパラパラめくっていると,とんでもない記事に出くわした。
中学3年理科の物理分野はエネルギーを一つの大きな柱としている。そこではさまざまな形態のエネルギーの相互転換が取り上げられている。
すでに2年で習ったことだが,電気でモーターを回すことができるし,逆にモーターを回せば電気が生じる。
その他には,電気を使って電球や LED を光らせることができた。また,電熱線は電気を熱に変える。
3年の教科書は,ではその逆はどうだろうかと問いかけてくる。もちろん,これらに対する答えはよく知られている。光を電気に変換するデバイスとしての太陽電池は今ではすっかりお馴染みだし,火力や原子力を用いた発電所は熱エネルギーを力学的エネルギーに転換し,最終的に電気エネルギーに変えているわけだから,熱エネルギーを電気エネルギーに転換し得るということは周知であろう。
しかし,『理科の世界』3年ではそういったありきたりの話を紹介するだけでは済まさない。
LED に光を当てたら電気ができるだろうか。
ペルチェ素子を冷やしたら電気ができるだろうか。
そんな実験を 61 ページで紹介しているのである!
奇しくも,僕はちょうどそのページを目にする数時間前に,さすがに LED に光を当てても電気が発生するなんてことはないだろう,だってそんな話聞いたこともないもん、と考えていた。
ところが,そんなバカげた考えを中学の教科書で大真面目に取り上げている。
試しもせず,「聞いたこともないから」などというくだらない理由でせっかくのアイデアを自ら捨ててしまうとは。
つくづく,自分に科学者の素質がないことを思い知った。
つまらない常識にとらわれて,はなから実験を試みないようでは,新しい発見などできるはずもない。科学者ならば,盲点など作ってはならない。
中学の教科書にも載っているようなことであるとはいえ,自分で思いついた予想を自分の手で確かめるという絶好の機会を逃したのは悔しいことこの上ない。
ちなみに,少し前に借りてきたものの全然目を通さないままでいる,長谷川竜生,釜野勝,上原信知著『よくわかる最新 LED の基本と仕組み』(秀和システム)にはこんなマニアックな話,書いてあるのかしらんと思って見てみると,3-9 節で LED の受光特性をバッチリ取り上げていた。もっとも,「あまり知られていないですが」という文言があるので,やはりメジャーな知識ではないようだ。この本は 2012年8月に出版されたとのことであるが,それより一年半前に検定が完了し,半年前に発行されていたらしい中学用の教科書に載っていたのである。大多数の中学教員も知らなかったと思うのだが,どうだろう。
それに,ペルチェ素子まで登場するとは,恐れ入ったという他ない。僕が最近取り組み始めたことはすでに中学理科の教科書に盛り込まれ済みだったわけである。
ただ,今回調べてみて分かったのだが,接触させた異なる金属に電流を流すと熱勾配が生じるというゼーベック効果と,その逆である,電流によって熱勾配が生じるというペルチェ(ペルティエ)効果自体は,200年近く前に発見されていたそうなので,ペルチェ素子の実験の元ネタはずっと昔からよく知られていた現象だったようだ。これらの現象を結ぶキーワードである「熱電効果」というのは,学生時代に習ったような気がする。そのことに思いが及ばなかったのは恥ずかしいことこの上ない。
最新の中学理科の教科書は,眺めているだけでも楽しい紙面であるのに,とっくの昔に義務教育を終えたいい大人の自分がふと我に返ると,己のふがいなさを痛感してしまって純粋に楽しめなくなる,というなんとも複雑な気持ちにさせる書物である。
けれども,たまたま開いた索引から iPS 細胞という今を時めく医療科学の最先端のキーワードが目に飛び込んできたし,「持続可能な社会」とか,身の回りの身近なことから新聞やニュースで取り上げられている最先端の話題までがてんこ盛りなので,科学・技術全般にわたって勉強し直したいという大人には,中学理科の教科書を一読することを強くお勧めする。